tackman's ゲーミングブログ

七色に光るわけではない(多分)。ボードゲーム関連の話題が多めになるかも

今年の訪問まとめ:特に海と坂と猫の古都

この記事は「どもがよAdvent Calendar2023」12/13分です。前日はjinさんのここ最近で経験したよかったものでした。十三機兵防衛圏はプレイした人みんな褒めてますね、とりあえず積むべきかな…?

ソウル

競馬のコリアカップを見に行くために国内旅行感覚で行ってきました。実際飛行機に乗ってる時間は九州まで行くのと大差ないし、航空券の実効価格は函館行きの方が高かったくらい。

街の印象としては「良くも悪くも平成初期の日本っぽい」「明洞と新宿の区別がつかないんだけど文字や会話はしっかり異国語のパラレルワールド体験」という感じです。if世界の日本体験をしたい人にはおすすめかも。

新宿かソウルかクイズを出されたら正解できる自信はない

コリアカップとソウル競馬場に関しては「今年行った競馬場振り返り」で改めてまとめるつもりです。あとnoteに投稿してみた記事はあります。

パリ

去年もエッセンシュピールからの帰りに寄ったのですが、その時は発熱をしてしまいロクな観光ができず悔しかったのでリベンジを兼ねて来ました。とは言え今年はルーヴルなど美術館で資料集めをする&凱旋門賞の観戦をするというミッションがあって滞在したため、振り返ってみると今回もあまりまともな観光はしていない気も…特に凱旋門賞でPlace(複勝)は取れる自信があったスルーセブンシーズちゃんがそれ4*1になったため、パリご飯を食べる予算がなくなったなどの影響もありました。ルメールおまえなーっ

凱旋門賞に関しては「今年行った競馬場振り返り」としてまとめるつもりです。

ルーヴルに関しては腹を決めて1.5日かけて回ったため、それなりの成果は得られました。美術館というと楽しむためのハードルが高い印象がありますが、ことルーヴルに関してはシンプルにデカい!すごい!!という分かりやすい魅力があるので、美術史なにも知らない勢でもおすすめできます。ルーヴルは元が宮殿なので、「美術館」という単語からイメージされるよりはるかに巨大で壮麗です。敢えて例えれば皇居が丸々美術館になって隅々まで歩ける感じ(共和制国家!!)。

バルセロナ

凱旋門賞シュピールエッセンの間でつなぎに欧州のどこに行こうかな、となった時に地中海を見たくなったので立ち寄りました。結果的に凱旋門賞で負けた傷心を地中海の陽光が癒やしてくれて、大変暖かったです。

ただ旅程としては問題があって、欧州域内の移動ならLCCで安価に行けるだろうとタカをくくっていたのですが、スーツケースを持ち運びながらLCCの中でもまともな航空会社を選ぶとお値段もそれなりになってしまいました。ついでで行くには若干交通費が膨れてしまったので、陸路でベルギーやオランダに寄るルートに比べて他人におすすめはしづらいのは残念です。

バルセロナは大変治安が良くご飯も美味しく、しかも円安が大変厳しい時期にも関わらず物価は東京並で済んで最高でした。

どれくらい治安が良かったかと言えば、夜中の22時頃に繁華街をフラついても身の危険を感じないで済むほど。一般に海外を日本の治安感覚で歩いてはいけないと言われますし、パリやUSAは実際ドン引きの治安の悪さなのですが、バルセロナに関しては安全安心でした。

ご飯の方は、単に安くて美味いというだけでなく日本人の味覚に合うのも高得点でした。魚介ベースの地中海料理+白ワインの組み合わせが日本料理+日本酒とパラレルで、現地飯だけ食べていても日本食シックにならずに済みそうです。

イスタンブール

欧州からの帰路におすすめなのがイスタンブールです。先日の記事で紹介したように、欧州帰りだと実質タダでイスタンブールは訪問できます。

イスタンブールは三方を海に囲まれた坂の街で、猫がいっぱいの古都です。バザールという商店街要素もあります。地中海式の穏やかな気候までついてくるので、設定だけならきらら漫画の世界です。

旧市街はヨーロッパ側から突き出た半島状になっていて、北に金角湾、東に海峡、南にマルマラ海で三方が海になっています。半島の中央部が小高い丘になっているため、中心から軽い坂道が続いています。坂と海の街はもうこの時点で絵になることは、神戸や尾道を思い浮かべてもらえば納得していただけると思います。

そして猫。とにかく猫が多く、至る所に猫がいます。油断するとうっかり猫踏んじゃったをしそうなくらい猫がいます。ねこはいます。本当にあらゆるところに猫がいて、ホテルのフロントは猫ですし

フロント係のねこ

街角で振り返るとねこがいます。

視線を感じてふと見上げたら目が合った猫。かなりびっくりしました

人通りのある中で子猫は遊んでいますし

ヒトに対する警戒が必要ないと知っている子猫たち

茶店のテーブル下で授乳まで始める母子がちがいます。

ねこ授乳中…

イスタンブールの主人はねこなので、警察車両よりもえらい

パトカーを占拠するねこ

イスタンブールは猫の都というネット記事を事前に読んでいたので知識として知ってはいたのですが、話半分で聞いているところはありました。そして現地を歩いて、私が間違っていたことに気づきました。ねこはいます。イスタンブール市民も皆ねこに優しく、食べ物やすみかを提供します。ねこの脅威は人類が排除します。イスタンブール2000万の人民がねこに奉仕します。ねこの生存、繁栄、幸福のためにイスタンブールという巨大システムが存在しています。ねこはいます、イスタンブールに。

「猫は人類の脆弱性を突いてただ可愛いだけでヒトを奉仕させる上位存在」というネットのヨタがありますが、猫のために存在するかのようなイスタンブールという街を見ると真顔になる実感がありました。

ねこ以外のイスタンブール

ながーーーーーい歴史を持つ古都なので、もちろん史跡には事欠きません。その辺にビザンツ時代の遺構が落ちていたりしますし、アヤソフィアはじめ寺社系建築物にも事欠きません。その辺に何の説明もなく転がしてある石碑も、日本なら重文級なのでは…?と疑われるものが多数ありました。

市街地で当たり前の顔をして建っているビザンツ時代の水道橋

単なる古都ではなくトルコ最大、世界有数の大都市なので生きている建造物の方が多いです。加えて海と坂の街なのでとにかくバエる絵も多い。

夜にきらめくYeni Camiモスク

きらら漫画を作ることがあればイスタンブールをベースに舞台を作りたい、という新たな野望が生まれたりしました。

バザールとトイレ

旧市街にはバザール(市場)があり、いかにも中近東!という雰囲気はありつつ危険があまりない形で味わえます。狭い路地をカップ一杯まで注いだチャイの出前を運びながらpardon pardonを連呼しながら人混みをかき分けるお兄さん、日本人と見るや「ミスター!」「モッテケドロボー!」という声がけをしてくるキャッチ(誰だよこんな日本語教えたのは)、観光地化した中心部から200mほど歩くだけで三分の一で売られているイブリック*2、絶対パチモンとしか思えないGUCCIと大書された衣料品、日本の二十分の一くらいの価格で買える衣料品やアクセなどなど。ぼくたちの想像するバザールそのものがあって、ここきらら漫画でした。

バザール

バザールはなんだかんだ小綺麗になってはいるのですが、大元は古いせいかトイレが少ないので少し難儀します。チャイが美味しくて調子に乗って飲んでいたため、軽く尊厳をかけた戦いはありました。きらら漫画ならバザールでお漏らしする回が絶対ある。

イスタンブールの公衆トイレは基本的には普通のトイレなのですが、足洗い場が必ずついているのは日本人目線だと面白ポイントでした。何に使うんだろうと思って見ていると、皆さん本当に靴と靴下を脱いで足を洗っている。自分の感覚だと、サンダルならともかく靴をはいていると足を洗うのは面倒そうだなあと思うものですが、日本人がウォシュレットに偏執しているようなものと思えばそういうものな気もします。モスク前でも足洗い場が標準装備(神社の手水のような感じで足洗い場がある)のお国柄なので、適度に足を洗わないと気持ち悪くなるのかもしれません。

イスタンブールの空港事情

適当に検索エンジンで調べただけだと案外情報が少なかったので、イスタンブールの空港事情に関して2023年10月時点での情報をまとめておきます。

基本的な事項

イスタンブールには2つの国際空港、欧州側にISTイスタンブール国際空港とアジア側にSAWサビハ・ギョクチェン国際空港があります。ややこしいことに、欧州側には過去に別の「イスタンブール空港(ケマル・アタチュルク空港)」がありました(本稿では以降「旧空港」と呼びます)。この旧空港は旧市街中心部に近いところにあるのですが、この手の立地あるあるの拡張性の問題を抱えていました。この間アジア側にあるサビハ・ギョクチェン国際空港と合わせてイスタンブールの空路需要を担っていたのですが、トルコリラのインフレ率より速く成長する需要をまかないきれなくなったため、近年になってヨーロッパ側に作られたのが最新の「イスタンブール国際空港」です。ややこしさに輪をかけるのが空港コードの変更で、かつては「IST」は旧空港に割り振られていたものが、新イスタンブール国際空港の開港でISTはイスタンブール国際空港に割り当てられました。古い記事では旧空港を「IST」としていることもあるので注意が必要です。

思いつくままにかえって人間を混乱させるようなことを書き連ねました。まとめると

  • ISTイスタンブール国際空港:欧州側にある最新最大の空港
  • SAWサビハ・ギョクチェン国際空港:アジア側にある第二空港
  • 旧空港:現在は旅客が使うことはない

となります。

イスタンブール市街と空港の乱暴な位置関係

ISTイスタンブール国際空港とSAWサビハ・ギョクチェン国際空港はそれぞれ市街地を挟んで反対側にあります。直線距離で60km以上離れている上に、空港同士の陸路でのアクセスも良くありません。

SAWサビハ・ギョクチェン国際空港はアジア側にある一方、イスタンブールの中心地はヨーロッパ側にあります。ボスポラス海峡は都市の規模の割には橋の本数が足りておらず、慢性的に渋滞傾向があるようです。加えてメトロなどの公共交通機関も弱く、有り体に言ってしまえば羽田空港に対する成田空港のような残念立地感があります。今回は到着時にSAWサビハ・ギョクチェン国際空港を利用したのですが、そこからヨーロッパ側にあるホテルまでハイヤーで30km少々移動をするだけで2時間近くかかりました。

一方のISTイスタンブール国際空港は、新しいイスタンブールひいてはトルコ共和国の顔として気合を入れて整備されています。空港自体も新しくて大きくてピカピカなので空港建築マニアなら一見の価値がありますし、メトロも急速に延伸されて市街地中心まで現在進行系で伸びてきています。

私は移動にあたって割りとGoogle Mapsに依存しているのですが、このISTイスタンブール国際空港へのアクセスに関してはGoogle Mapsの持っている情報が古いためか新しいメトロの路線を使ったルートを出してくれませんでした。Google Mapsが途上国の情報に関しては手薄になりがちであろう点と、トルコのメトロがすごい勢いで整備されていることの合せ技なんだろうなと思います。

ISTイスタンブール国際空港へのメトロ

ISTイスタンブール国際空港へはメトロM11号線でアクセスできます。M11号線は空港側から起工して市街地側へ延伸しているようで、2023年10月の段階ではGayrettepe駅という非常に中途半端なところが市街側の終着駅でした。Gayrettepe駅は新市街(ヨーロッパ側かつ金角湾の北側のエリア。アジア側のことではない)の北の端あたりという位置で、旧市街から空港への中間地点あたりにあります。

Gayrettepe駅自体には何もないとは言え、ここでメトロM2号線に乗り換えができるのでそこからイスタンブール中心部へのアクセスはそこまで困りません。ただしM2号線とM11号線のホームはつながっておらず、一旦改札を出て屋外を200mほど歩く必要はあります。あくまで仮の終着駅ゆえの不便さかも。

完全体とは言えないM11号線ですが、開通済み区間は最新鋭設備で高速運転をしており、距離的にはそれなりに離れているISTイスタンブール国際空港まで20分も乗車していれば着いてしまいます。ISTイスタンブール国際空港自体と合わせて国威路線!という圧は感じるピカピカ路線だったので、来年には市街中心部まで延伸されているかもしれません。

国威鉄道ということが一目で分かるM11号線車内。無限エルドゥアン大統領列車

ちなみにトルコのGoogle Mapsの情報は古くなっていることが少なくなく、Gayrettepe駅付近に関しても現状が反映されていないようです。ついでに3Dビューも使えません。見知らぬ土地でもあらかじめストリートビューで確認ができる世の中になって久しいですが、イスタンブールに関してはまだ行ってみて現地で勝負をせざるを得ない点は多そうです。

本稿のために改めてネットで拾えるM11号線の情報を調べたのですが、最新過ぎるのか仕事がテキトーなのかイスタンブールメトロ公式ページに掲載されていませんでした。いや流石にそれくらいは掲載していて欲しいんですが…

ホームページの情報は更新されていませんでしたが、現地の案内板にはちゃんと「空港ならこちら!」が英語併記で掲載されているのでそこまで不親切というわけでもありません。加えてイスタンブールのメトロには必ず警備員(警察か軍人か、いずれにしろ公務員系)がいるので困ったらカタコト英語ででも尋ねれば何とかなると思います*3

ところで最近急に海外旅行オタクになってない?

プーチンが悪い。もう少し言えば行けるうちに行かなければという危機感に火がついた、ということになります。

自分の中の「そのうち行ってみたい街リスト」の上位の方にサンクトペテルブルクやモスクワはあったのですが、2022年2月以降生きている間に、あるいは少なくとも元気な間に観光で行くには一気にハードルが上がってしまいました。ウクライナへの全面侵攻は「まさか」の事件でしたが、まさかというようなことが一晩で起き得る世界に住んでいるということを痛感させらせました。

世界情勢がご覧の有様で、予見可能な将来においては悪化する一方です。加えて自身の年齢も考えると、世界情勢が落ち着くのを待っていては良くて海外に行けるような健康体力が無くなっている、下手するとその前にお迎えすらありえます。というわけで、金と暇がそこそこある今のうちに行けるだけ行くしかないという焦りもあり機会をみつけて行っている次第です。

明日の記事は柳雪さんの「娯楽の王様たち2023」だそうです。何の記事か想像がつきませんが、面白そうなものを紹介してくれそうです。

*1:馬券を買った馬が惜しくも4着になること。好走してるんだけど馬券としては3着以内に入らなければ意味がないため

*2:トルココーヒーを入れるための小鍋

*3:途上国一般の話として官憲の腐敗に注意が必要ではあるのですが、イスタンブール中心部かつメトロ構内に限ってはそちらの方向の心配はあまり必要なさそうには見えました。とは言えこれは狭い範囲の主観での判断なので、旅の安全はご自身で。

今年参加した海外ボードゲームイベント

この記事は「どもがよAdvent Calendar2023」12/9分です。前日はてよださんの1年振り返りでした。めっちゃクリエイティブしてる。

本文

2023年5月、Essen Spiel Guidebook 2023が上々の売れ行きを示したのを見て、誰ともなく「そういえば8月にはGenConありますね」という話になりました。行くの?今からマジで?と言う片手間にSkyscannerで行くならこの便、Booking.comで「この部屋なら安いねえ」「この地区は安いけど治安ヤバそう」「ていうかこないだ竜巻で吹っ飛んだところじゃん」などと宿を探し始め、具体化してしまった結果じゃあ行くかという流れに。エッセンシュピール旅団が海外アナログゲームイベント遠征団化していった瞬間でした。

というわけで、2023年は海外アナログゲームイベントとしてGenConとSPIEL Essenに行くことになりました。今年の振り返りとして、この2つのイベントの報告です。エッセンに関しては昨年も行った本も出したのでさらっと触れつつ、はじめてのGenConレポートをメインにお届けします。

GenCon

今年の8月にはアメリカ・インディアナポリスで行われる米州最大、世界的に見てもSPIEL Essenに匹敵するアナログゲームの祭典GenConに参加してきました。参加者数はUUで約7万人*1。ちなみに会期は4日間です。SPIEL Essen 2023のの参加者数はのべ人数で19.3万人*2。イベントの性格が違いから単純比較はできませんが、規模感でSPIELと大きな差はないイベントだと分かります。

ホール全体図

インディアナポリスについて

日本でかろうじて知名度があるのはインディ500の舞台としてでしょうか。基本的には中西部の田舎都市で、一般的な観光目的で面白いものがある場所ではありません。中西部と言ってもどういう地域かピンと来る日本人は少数派でしょうし、伝統的に共和党が強いレッド・ステートという本物寄りUSAでもあります。入国審査ではインディアナポリスに行くと審査官に告げたところ「インディアナポリス?何しに行くの?」と聞かれました。市街地の中心部にビッグサイト3個分くらいの超巨大コンベンションセンターがある、という事実の一点だけでも他に何もないんだなということが察せると思います。

USAドメスティックには陸運や産業上決して軽視できはしないのですが、外国人には縁遠い存在になりがちなタイプの街。そのせいか海外からのアクセスは悪く、INDインディアナポリス国際空港への日本からの直行便は存在しないため乗り継ぎ必須、航空券代金も欧州行きに比べて倍くらいします。

無限の土地が広がっていたところに現代文明がいきなり入植したような街のつくりになっているので、「都市」と言った時に日本や欧州で想像されるものとはかなり異なります。近郊の住宅地は家同士の間隔が当たり前のように100m200mと空いている、道は広い車道があって近距離でも歩行者や自転車が移動できそうもなく、比喩抜きで隣の家に行くのにも車がなければどうしようもなさそうに見えるほど。それでいて決してど田舎や人がいない土地というわけではなく、恐ろしいほど贅沢に土地を使った一軒家が延々と連なっていてなるほど間違いなく「都市」なんだなとはなります。スーパーは20km先だけれどハイウェイで10分なので実際近い世界。

全ての移動は車が前提なので、「XX近く」を名乗っていても日本や欧州の感覚で考えてはいけません。例えば到着時に「空港前」を名乗るホテルに泊まったのですが、これは空港ターミナルビルから徒歩だと2時間ほどの位置。どういうことかと言えばホテルは空港の敷地を挟んで反対側で、かつ空港自体がUSAサイズで、州都とは言え地方空港でありながら日本で一番大きな空港と比べてなお数倍の大きさ。そのためターミナルビルから10マイルほど離れているし、そもそも人間が歩いて移動をすることが想定されていないためハイウェイ以外でたどり着く方法があるのかも怪しい。

土地の使い方は住宅以外にも出ていて、例えばインディアナポリス空港の前には数キロメートルに渡って駐車場が広がっています。州民みんながマイカーを止めっぱなしにして旅行しても大丈夫なんだろうなというサイズです。それから空港そばには無限に倉庫が広がっています。飛行機で着陸時に「ずっと倉庫だな〜」と思うほどだったので、その規模は推して知るべしです。

ただのスーパー。徒歩だと目の前のスーパーにさえどうやって行くのか分からないアルティメット車社会

このような土地柄なので、分かりやすい観光地などはありません。War Memorial Museum(戦争記念博物館)と付随のモニュメント群は見応えがあるのですが、題材が題材なので人を選ぶところです。日本人からすれば何かと因縁のあるUSSインディアナポリスの輝かしい戦歴が展示されていたりするのですが、日本人の身でそれを見に行ってニヤニヤできるメンタリティならおすすめはできます。

「アレ」のオリジナル。全編こういう感じの施設ということで内容は察してください

ご飯に関しても、レパートリーとしてはごくごく普通のUSA飯が出てくるので観光的には弱め。メシマズの国の印象に反して、素材の暴力パワーかピザやサラダが感動的に美味かったりはします。ただあまり情報を食えないタイプの飯ではあるので、観光目的にはなりづらいのが難点です。

ここまで延々書いてきたように、観光目的ではGenCon以外何もないと言い切っていい街です。そのため会期中はひたすらコンベンション会場でGenConを味わい続ける以外にやることはありません。

ホームメイドサラダ。うまい

GenConの会場

本会場単体でビッグサイトの東西館を合わせたくらいの敷地面積(2F部分があるため延べ床面積はさらに大きくなる)があるのですが、それに加えて隣接する高級ホテルやスタジアムが地下道や空中回廊で一体化しています。一度も外の空気を吸うことなくホテル~会場間を往復できるわけです。

コンベンションセンターとホテルが合わさりコンプレックス化している様子は、ぜひGoogle Mapsなどで確認して欲しいです。Google Maps衛星写真モードで見るとコンベンションセンターとホテルをつなぐ連絡橋が見えますし、PCの3Dモードにも対応しているのでコンベンションセンターとホテルの関係を立体感を持って把握できます。

入場方法

あらかじめお断りをしておくと、GenConの入場システムに関しては全容を解明できたとは言えません。しかしこの題材単体で項目を立てる程度にはアメリカの神秘に溢れていました。

入場チケットはオンラインで購入します。Webから購入可能で、このあたりはSPIELや最近のゲームマーケットと変わるところはありません。

オンラインでのチケット購入が済んでいる状態で、物理入場パスを入手する必要があります。米国内在住なら自宅まで郵送をしてもらえるようですが、国外向けにはその手は取れません。ではどうするのか?窓口で並んでもらうことになります。

まずこの窓口、長蛇の列ができます。巨大なコンベンションセンターの端から端まで、半マイルほども並ぶことになります。列の最後尾に並んで受け取りまで1時間コース、コミケ並ですか?コミケと違って一応はエアコンの効いた屋内で並べるのはマシな点ですが、まさかアメリカでこの手の列形成があるとは思いませんでした。

そして受け渡し窓口でのオペレーションが不思議の国です。ID(身分証、外国人たる我々の場合はパスポート)を窓口の人に渡すと、ちょっと待っててねと言われスタッフがそのままパスポートを持って奥に入っていきます。奥には大量のファイラー(紙の資料を整理するためのアレ、昭和のオフィスドラマとかで見るやつ)に格納された入場証があり、スタッフが手動でピックアップしてきたものを「これあなたのですか?」と確認されるわけです(そして普通に間違っていた)。

パスポートを一時的にとは言えスタッフに渡して、自分の目の届かないところにやるのも結構心臓に悪かったです。治安は悪くても悪意はあまりないUSAだからギリ耐えましたが、トルコやインドでこのオペレーションされたら受け渡し拒否してたと思う。

私が入場証受け取りチャレンジをした時には、いくら探しても入場証が見つからなかったためさらにサポートの窓口へ回されました。窓口の人とおしゃべりした結果、「チケット買ったの?いつ?えっ30分前?ウチはオーダー来た順に印刷しているから(親指で後ろのプリンタを指す)、まだ印刷できてないね。今印刷してあげるからちょっと待ってて」という流れに。

この件に限らずUSAは万事がRPGで、人と話すとヒントをもらえてクエストをすると何かがもらえるリアルRPGワールドでした。ホテルのフロントでお願いしたら無料水もらえたりとか。ダンジョンズ&ドラゴンズのようなRPGアメリカから生まれたのは必然で、何のことはない彼らは日常でやっていることをゲームにしただけなんだなあという納得がありました。

会場の構成

メインホール

ハコ自体は一般的な即売会会場のものです。とは言えこれ単体でもビッグサイト全館くらいの規模感があり大きい。GenCon独特な点として、広大なプレイスペース併設のホールが全体の半分くらいを占めていること。ビッグサイトで例えるなら、東館は展示販売スペースになっていて、西館全体がプレイスペースになっている感じ。

そんな巨大なプレイスペースで何をするかと言えば、これまた巨大なリッチコンポーネントで机を何脚も専有するような豪華コンポーネントゲームが遊ばれていました。全てがアメリカンサイズ。

展示販売会場の方はSPIELなどと基本的に一緒なのですが、構成はややGenConカラーが出てはいました。ダイス、D&D系コスプレ用具、筆記用具などのRPG成分が多かったのはD&Dコンベンションから育ってきたGenConらしいところ。またウォーゲームの多さもアメリカらしさというか、SPIELでは控えめにされていた成分が大々的に展開されていました。

狭義のボードゲームに関しては、SPIELの6掛けくらいの規模感という感じ。十分に大きいしSPIELより先にGenConで発売されるタイトルもあったりはしますが、ボードゲームに限るとやはりSPIELが世界最大の祭典ということになりそうです。

超巨大プレイスペース兼用展示ホール

廊下・会議室部分

アメリカらしくゆとりのある建物構成なので、廊下の一部も中小サークル向けの出展スペースとして利用されています。大学のサークルでの出展もあり、基本的に企業出展しかないSPIELに比べてコミュニティベースであることを感じさせます。

会議室(と言っても数百人入れる大部屋も多い)は各種イベントに供用されていました。GenConではユーザー企画のイベントが山盛りで、会期中合計1万件以上が登録されています。イベント参加はGenCon入場料とは別に有償のものが大半で、TRPGのコンベンションなどを会期中にやったり、ボードゲームの大会があったりするようです。

イベントに関しては、事前にオンラインで調べていた時に「こんなに数があるってどういうこと??」となりノープランで参加したため、あまり見て回ることはできませんでした。来年は参加して実績解除したい。

会議場の中で珍しいものとして、中古販売&オークション会場をやっているところがありました。私はこれを勝手にヨークシンと呼んでいます*3。中古販売コーナーではガラクタからちょっとした希少アイテムが売られており、「Thu: $20, Fri: $15, Sat-Sun: $10」という感じでダッチオークション形式になっています。ここでテラフォーミング・マーズの限定立体コンポーネントを一日目に発見、ちょっと気になったものの様子を見ていたら2日目に無くなっていて「なるほどな~」となったりしました。またオークションも同じ部屋というかホール内で行われているので、隣でオークションが盛り上がっている中でガラクタ漁りをする楽しみもあります。ここもRPGですね。

スタジアム

あくまでサブ会場なためか、ゆったりとした使われ方をしていました。ボードゲームのレンタル&プレイスペースがあったり、Diplomacyのチャンピオンシップをやっていたり。会場の広さの割には人は少なく、休憩して一息入れるのにちょうどいいくらいでした。

日本だとスタジアム一個借り上げるからには使用率100%を目指しそうなものですが、USAなためか贅沢な使い方をしているという印象です。

スタジアム会場風景

ホテル

併設の高級ホテルも会場の一部ということで、フロントなどに隣接している会議室などが会場内のものと同様イベントに供用されていました。そのため見るからにオタク!という人たちが高級ホテルを占拠している絵面が見れます。

雰囲気

SPIELの運営は(2023年から変わったりしていますが)メッセの所有会社だったりコンベンション屋の企業だったりしますが、いずれにしろきっちりビジネスとしてやっているところです。出展も企業がするのが原則です。

それに対してGenConはRPGをやるコミュニティベースで発展してきた経緯があり、今もって運営体制にそれが色濃く出ているようです。日本で言えばコミケと準備会を想像しておけば当たらずとも遠からずなんだろうなと思っています。GenConの歴史を調べると、20年ほど前にインディアナポリスに落ち着くまではあちこちを移動しては追い出されを繰り返しており、これもコミケを彷彿とさせます。前述の不思議入場システムも、アナログ処理していた時代から引き継いでやっているんだろうなと思えば納得できてしまいます。

イベントの出自との因果関係は断定できませんが、GenConはかなりオタクっぽい雰囲気が強いです。SPIELでエロゲ看板風のスペースは隅の方で肩身が狭そうに展示していましたが、GenConではかなり大手を振っていました。日本系ポップカルチャーの浸透度合いもかなり高く、かつてアメコミが占めていた場所の少なくない部分が取って代わっているのではという印象を受けます。

レインボーフラッグも大好きで、LGBT運動的な「ガチ」なものから単純に七色に光るのが嬉しいだけなのでは??と思うものまで幅はありつつ七色意匠は多かったです。前述の合衆国ナショナリズム全開の戦争記念博物館を見てきた後で、またインディアナポリス自体も実直な地方都市なためGenCon会場だけが異空間になっていました。

おたく

来年も行くぞ

何しろSPIELに比べてネットに転がってる情報が圧倒的に少なく、じゃあ行ってみるか!で行ったため初参加で溺れて来るような体験でした。RPGの国らしく様々な謎が残されているため、その解明のためにもGenCon2024に参加して来ようと思っています。

エッセンに比べて奇特な人向けのイベントですが、GenCon行き旅団のメンバーも募集中ですよ!

SPIEL Essen

今年も行ってきましたSPIEL Essen。GenConの記述で力尽きたので、去年の記事へのリンクを置いておきます。大筋は去年と変わらなかった一方で今年から変わったことも多いのですが、そのあたりは明日のゲームマーケットで出す新刊にまとまっているので気になった人は買ってね!(ダイマ

gamemarket.jp

「今すぐしよう、エッセン準備!」が掛け声の団体なので、こちらも来年のエッセンに行きたい方は募集中。より万人が楽しめるイベントですし、欧州ということで普通の観光資源も多いので割りとおすすめできます。


どもがよAdvent Calendar、明日はのぞみさんによる1年の振り返りとのことです。乞うご期待。

SPIEL Essen 前後の欧州移動プラン

この記事は「どもがよAdvent Calendar2023」12/6分です。前日は柳雪さんの「今年のおすすめSteamゲーム」でした。ビリビリが大航海時代の精神的続編出していたのは恥ずかしながら知らなかった、デキ云々ではなく現代文化史必修かも…

本文

エッセン市はドイツ北西部、ノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)にあります。なじみのない人には「どこ?」となる地名ですが、実は現代西欧及び欧州連合の中心地域に位置しており、陸路の移動で結構色々なところに行けたりします。

加えて、SPIEL Essenの行われる時期は欧州連合中核地域でイベントが多い時期でもあります。例えばパリで競馬の凱旋門賞は例年SPIELの1つ前の週に行われますし、ファッションショーのパリコレもこの時期にやっています。ビール祭りで有名なミュンヘンオクトーバーフェストもSPIELの直前です。

どうせエッセンまで行くのなら、もう少し滞在期間を追加するだけでこれらのイベントに参加もできてしまいます。一回の渡航で片道20時間前後はかかってしまうので、欧州に行くからには色々楽しんだ方がお得で満足度も高くなります。飛行機代の実質タダ化も進むので、ここではSPIELに合わせた鉄道利用プランを紹介していきます。

ノルトライン=ヴェストファーレン周辺地図。赤=Thalys区間、青=主要鉄路

ドイツ鉄道(DB)心構え

具体的なルートの話に入る前に、ドイツ鉄道を使うにあたっての心構えの話はせざるを得ないのでここに置きます。

  1. DBは遅れるものと心得よ
  2. 運休は日常と心得よ
  3. 鉄道ではなく、飛行機や長距離バスのように扱うべし

ドイツ鉄道の定時運行性に関しては現地民も旅行者も口を揃えて悪口を言うレベルで、イタリア鉄道に「お前らのせいでうちのダイヤが乱れる」と言われるほどです。ドイツ=勤勉のイメージから日本同様に厳格なダイヤグラム運行をしてそうな印象になりますが、こと鉄道に関しては全くアテになりません。

2023年のシュピールエッセン参加時にも、DBが何の前触れもなくDuisburg-Essenという東西の大動脈にあたる路線を運休したため大変なことになったりしました。そのあたりの顛末はゲームマーケット2023秋の新刊で記事になっているので、気になった方はぜひ見てね!(ダイマ

gamemarket.jp

ここまでダメなDBをなぜ使うかと言えば、

  • 安い
  • (動けば)速い

という特長は代えがたいからです。上手くやれば「特急料金込で」日本の在来線「乗車券のみ」運賃の半額程度で乗れて、それでいて日本の在来線特急~新幹線並のスピードで移動できます。日本だと東京~名古屋間は新幹線1.5時間と言われても片道1万円以上になって心理的に移動しづらさはありますが、DBでは同じくらいの距離をICE(都市間急行、新幹線だとひかり号くらいの感覚)で2~3000円だったりします。多少の運休遅延があっても、「まあJRの5分の1だしな…」と思えば許せる気がしてくるので鉄道の活用はおすすめです。

DBで一般的なICE車両

コース1:ルールからネーデルラント

エッセン市はドイツ連邦共和国の中でも、北西の端に近い位置にあります。ドイツ連邦の北西と言えばオランダ、ベルギーなどの低地諸国があり、アムステルダムまで直線距離で200kmもありません。実はベルリンやミュンヘンに比べても、電車や長距離バスでふらっと行けてしまう距離です。アムステルダム自体観光にはもってこいの街な上に、AMSアムステルダムスキポール空港は欧州屈指のハブ空港でもあります。ここから帰国も第三国へのフライトも自由に行ける場所です。

所要時間については、ICEを使えば3~4時間程度でエッセンからアムステルダムに着いてしまいます。RE(地域急行、区間快速的なもの)でのんびり車窓を眺めながら移動しても楽しいです。

なおせっかくの鉄道旅ですが、オランダ国内発着便はなぜか異様に窓が汚れていてすりガラス状態のことが多いです。車内の清掃もDB運行便に比べて行き届いていないことが多く、特にアルンヘム-アムステルダム間のICEに乗った時は液体と謎の粉が散乱していてシートに座るのを躊躇するレベルでした。前述の格安価格で乗せてもらえるので、まあこんなもんかと納得するしかありませんでしたが…

近未来的な雰囲気のArnhem Centraal駅

コース2a:パリ~アルザスライン川下り

パリで凱旋門賞があるのは例年10月の第一日曜日、シュピールエッセンは10月第二の週末です。凱旋門賞を観戦してからシュピールエッセン開始までの間を、アルザスを回りながら過ごすルートはこちら。

パリ-ストラスブール間はフランスの高速鉄道Thalysが走っており、値段も所要時間も新幹線の感覚です。その辺のICEと違って全席指定が基本なので、事前予約は必須。お高い&フランスの国威鉄道だけあってクオリティは高いです。赤基調の上品な内装は良いもので、これを見るためにThalysに乗ってみるのもいいと思います。

先にドイツ鉄道の話を書きましたが、Thalysに関しては高くて速い、ほぼ新幹線と同じような使い勝手の特急便です。パリ~ブリュッセル間だと途中停車駅ゼロの便が多く、全席指定なのもあいまって正しくのぞみという感じ。

Thalysは内装も赤基調でおしゃれ。フランスを感じます

ついでの補足をすると、北西ヨーロッパの鉄路はブリュッセルがハブとして重要駅になっています。仏独間の主要線はブリュッセルを経由し(オランダを通らず)ドイツ・NRW方面に通じます。アムステルダム方面はブリュッセルで分岐する支線的な要素が強いです。ロンドン方面へのユーロスター号もブリュッセルが起点で、鉄路だととりあえずブリュッセル経由になることは多いです。

ストラスブール(仏)は欧州議会などEU関連の政庁があるので、国際機関オタクにおすすめ。またストラスブールシュトゥットガルト(独)近辺のアルザス地方は「ご注文はうさぎですか?」のロケ地にもなっており、きららオタクの聖地でもあります。

シュトゥットガルトから先はDBでゆっっっくりライン沿いに下り、フランクフルト~ケルン~デュッセルドルフというルートでエッセンまでたどり着けます。Thalys区間に比べると同じ距離を行くのにびっくりするほど所要時間が違いますが、旅行であればのんびり車窓を楽しめばいいと思います。

フランクフルト~ケルンの間には、世界遺産になっているライン渓谷中流上部・コブレンツの古城付近を鉄道で通る区間があります。幹線でありながら観光鉄道を味わえるのでその点でもおすすめ。こちらの詳細は、春に出した既刊「Essen Spiel Guidebook 2023」で紹介されています(ダイマ)。

gamemarket.jp

コース2b:パリ〜ミュンヘンライン川下り

パリで凱旋門賞があるのは例年10月の第一日曜日、ミュンヘンオクトーバーフェスト(ビール祭り)が行われるのも同週、シュピールエッセンは10月第二の週末です。という日程を踏まえて、凱旋門賞オクトーバーフェストからシュピールエッセンへハシゴをする場合のルートはこちら。

大枠はストラスブールシュトゥットガルト経由からライン川下りと同じで、シュトゥットガルトで北に向かわずそのまま東に進み続けてミュンヘンへ。オクトーバーフェストの最終日が例年凱旋門賞の直後くらいになるはずなので、ここで酔い潰れてからエッセンへ向かいましょう。

ドイツ鉄道の一般車両

コース3:パリ〜ブリュッセル〜アーヘン~NRW

フランス製高速鉄道Thalysは、実はブリュッセルを経由してエッセンまで来る便があります(地図上で赤い線を引いている部分がThalys区間、青い線が通常のICEのみ)。なんだかんだThalysは高速鉄道に恥じない性能なので、素直にこのルートに沿ってエッセンまで行く場合はこちら。

紹介順は後の方になっていますが、パリからエッセンまで鉄路移動をするなら一番素直なルートはこれになります。

単なる最短ルートというだけでもなく、アーヘンは世界遺産の大聖堂がある古都です。ここ自体が目的になるくらいの観光地でもあるので、道すがらに寄るには十分以上の魅力があります。

Extra: イスタンブールに行く

エッセン周辺の密度の高さを活かして陸路移動をしようという主旨から外れますが、渡欧ついでに実質タダでイスタンブール訪問をするというプランもあります。これは「ドイツ→日本への航空券代金≒ドイツ→イスタンブールへの航空券+イスタンブール→日本への航空券代金」という状況を利用して、ドイツから直帰せずにイスタンブール滞在を挟むというものです。

本稿は2023年5月頃から10月頃までの状況をもとに執筆しています。航空券の状況は日々変わるので、常にイスタンブール経由が実質タダになるとは言えません。ただ、「ドイツからの直帰ではなく中東など他地域を挟んで同じ飛行機代で色んなところに行く」というコンセプトは将来も有効だと思われます。

ドイツから日本へのフライトルート。ドバイ経由だと6h+12hのフライトで、イスタンブール経由だと3h+8h+6hのフライト。中央アジア航路の方が大圏航路に近い

実際やったルート

このルートはフライトに限ってもメリットがありました。一回の最長フライト時間が約8時間(IST~UBN)に抑えられるのは大きいです。ドイツから日本へ直帰するルートだと、通常トランジットを挟んで長い方のフライトが12~14時間程度にはなります。フライトによるストレスはフライト時間に対して非線形に伸びるので、12時間のフライトより8時間+4時間のフライトの方が楽になることは多いです。加えて、MIATはイスタンブールウランバートル間を大圏航路に近いルートで飛行できるため、総フライト時間も短く抑えられています。ロシア上空が使えなくなってしまった現代にあって、これはかなり大きなメリットです。

(多分)アララト山。運が良いとこれが見れるのはイスタンブールウランバートルルートのいいところかも

イスタンブール自体の魅力

そこまでしてイスタンブールに行ってどうするの?と思う方もいるかもしれませんが、イスタンブールはすごくいい場所です。これに関しては別途記事を上げる予定です(予告)。

ねこです。なれなれしかったです

本記事で書かなかったことと予告

さらっと流してきましたが、私は今年もシュピールエッセンに参加してきました。そして前後でパリで凱旋門賞を見て、イスタンブールに寄って帰国するというオタク旅程をやっています。シュピールも含めたレポ記事を書くのを宿題化してしまっているので、これらを年内に記事にしたいと思います。

12/7の記事は三澤屋ふぉるごれさんが、アラサーからのデュエリストデビューの記事を上げてくれるようです。乞うご期待。

合成オッズの計算式の導出方法

ググってもChatGPTに聞いてもあまりちゃんとした答えが返って来なかったので。計算方法を天下りに書いている記事は多数あるものの、定義と見比べてそこまで自明な形ではなく首をかしげたので備忘兼ねて置いておきます。

合成オッズとは

定義は

「複数の買い目を購入時、どの買い目が当たっても払戻金が同額になるように賭けた時の賭け金全額に対する払い戻し率」

単純な例だと、オッズ5倍の馬券Aとオッズ5倍の馬券Bを買ったら5÷2=2.5倍が合成オッズになる。これを複数点、それぞれ異なるオッズに対しての計算式の導出が下記。

記号の定義

  • o_i i番目の買い目のオッズ
  • b_i 合成オッズの買い方をした場合の、i番目の買い目に賭ける金額。ここでは一定金額をどの買い目に割り振るかだけを考えればいいので、合計購入額が1となるようにする。\sum_i b_i = 1 (式1)
  • r 買い目1点あたりの払戻金。合成オッズの定義より一定  b_i o_i = r (式2) 式1で規格化しているので、rは合成オッズそのものになる

導出

(式2)を変形して

 \cfrac{1}{o_i} =  \cfrac{b_i}{r}

各買い目に関して足し合わせると

 \sum_i \cfrac{1}{o_i} = \sum_i \cfrac{b_i}{r}

 = \cfrac{1}{r} ※(式1)を適用

上式の逆数を取ると

 合成オッズ = r = \cfrac{1}{\sum_i \cfrac{1}{o_i}}

で、無事「合成オッズの計算公式」が導出される。

Stable Diffusionに関する随筆

この記事はどもがよAdvent Calendar 2022です。

Stable Diffusionの概要

Stable Diffusionはtext-to-image生成モデルの一種です。text-to-imageができる製品としてはMidJourneyやNovelAIDiffusion(NAI), TrinArtなどがありますが、そういった「イラストAI」のエンジンに相当する部分で2022年12月現在で世界最大手の存在と言えるものです。上述のうちNovelAIDiffusionやTrinArtはStable Diffusionを基盤モデルとして、二次元イラスト向けに「微調整(finetuning)」したものでもあります。

単にtext-to-imageのAIというだけならこれ以前から研究者の間で知られているものもあったのですが、Stable Diffusionが特別なのは全てをオープンソースにしてしまったことです。学習をさせるプログラムのコードはもちろん、学習に用いたデータセット、数千万円をかけて学習をさせた結果のモデルファイルまでかなり自由度の高いライセンスで配布してしまっています。GoogleやOpenAIがこれまで開発してきたtext-to-imageモデルを利用した製品(DALL-Eとか)がモデルファイルは公開しない形なのはもちろん、利用者自体を絞った形でクローズトβを少しずつやってきていたところからすると破壊的というか破滅的イノベーションだったと言えます。Stable DiffusionのCEOはインタビューで「創作の民主化のためにやった、儲かるかは分からないけど熱意はあるからやる」という趣旨の発言をしており、語弊を恐れずに言えば狂人という印象を受けたのを覚えています。

ともあれStable Diffusionモデルが公開された(ついでにNovelAIDiffusionのリークとリーク品をベースにしたとおぼしきサービスや派生モデルが中国から無限に湧く)2022年になったというのがこの世界線です。漠然と「クリエイティブの民主化をしたいなあ」前々から考えていた身なので、Stable Diffusionは使えるだけ使い倒したいと思っています。

Stable Diffusionの特性

学習データセットLAION5BというWeb上超巨大画像・テキストアノテーション集合です。オープンデータセットとしては恐らく史上空前の規模で、画像のURLとアノテーションテキストだけで数TBにもなります。仮に全画像をローカル保存しようとすると数百TBが必要とされており、単一マシンへの格納は逸般家庭でもなかなか厳しいのではないでしょうか。過去のオープンデータセットは画像全部を入れても(思い当たる範囲では)一桁TB単位という感じだったので、GoogleAdobeの持つビッグデータに依存しない形としては別世界に来た感はあります。またここから学習させるために投入されたコンピューティング費用も数千万円という単位で、完全に個人ではやれない領域になっています。そのため小規模のプレイヤーの取り得ることは、学習済みStable Diffusionを基盤モデルとして何かをしていくことだろうと考えています。

Stable Diffusionは写真的な画像を良く出力する一方で、二次元イラスト(広義のアニメ絵)に特化したNovelAIDiffusionなどと比べると二次元イラストを上手く出力させることは難しいとされています。ただ、Stable Diffusion自体がNAIのようなイラストを生成する能力に欠けているのか、それともイラスト用に特化していないだけでSD自体が潜在的にイラストを描けるのかは今ひとつ分かりません。NAIはSDをベースに二次元イラストデータセットDanbooruデータセット、数百万件の画像がありこれも普通の感覚では十分大きなデータセット)で追加学習を行なったものですが、SDの持っている表現力やLAION5Bの規模感を考えると、何でもできるSDから描ける範囲を絞ることで人類に使いやすくしているのがNAIという可能性もありそうに思えます。

仮にStable Diffusionを万能モデルとして扱えるなら、SD自体の透明性およびライセンスの健康性と合わせて、そこにはWebの全てが詰まっているある種のオラクルとして扱えるのではと考えたりしています。この仮説の妥当性がどれほどのものなのかは霊感ソースでもよく分からないという段階なので、さしあたりLAION5Bの中身の分析から着手しているところです。

追加学習と派生モデル

SD派生の二次元イラスト向けモデルとして、NovelAIDiffusionとWaifuDiffusion(WD)を比べてみます。いずれもSD派生モデルで、Danbooruデータセットを利用して追加学習を行なっています。ここまで条件が共通なら似たような性能になって良さそうなものですが、生成結果には結構な差があります。NAIは事業でWDは個人の趣味の範囲という差はあるのですが、WDが仮に潤沢なコンピューティング資源を使えたとしてもNAIのようにはならないのではないかという感触があります(ただし本稿執筆時点で。現状が一夜で変わる可能性もあります)。NAIのブログを読むと前処理などでそこそこ非自明な工夫をしているようですし、企業秘密の部分で何かしらの秘伝要素も入ってそうな気もします。

NAIで生成されるイラストの俗称として「マスピ顔」というものがあります。高品位なイラストを生成するために付与される定番プロンプトにmasterpieceがあり、NAIではmasterpieceを入れると似たような顔と画風の女の子が出てくることからこのようなジャーゴンが存在します(揶揄のニュアンスもあるのですが、最近は一周回ってマスピちゃんが可愛く思えてきている人も出てきたりはしています)。補足として、マスピ顔じゃない絵少し慣れたら簡単に作れます。個人的にはマスピ顔も嫌いじゃないんですけど。

この「マスピ顔」はそこそこ今風の絵柄で、Danbooruの「平均的な絵柄」とは違う分布になっている気がしています。Danbooruでランダムに画像を見てみると、全体としては00年代を彷彿とさせる絵柄に当たる確率の方が高いように思います。WaifuDiffusionの出力する絵はこの点非常に分かりやすくDanbooruソースという感じで、Danbooru臭さが抜けているNAIは何かしらのトリックを使ってそうな気がします。

なお2022年12月現在はさまざまなイラスト向けSD派生モデルがありますが、高性能とされるモデルは少なくないものが出所不明、かつリークしたNAIモデルを改造したと強く疑われるものがほぼ全てという状態です(本件は有志によりそれなりの検証がされています。無法地帯!)。あまり技術的なところが分からなくても、NAIで作られたマスピ顔をいっぱい見ていると「新しいイラストAI」を見てもだいたいひと目見て「ああNAIベースだね」と分かったりもします。NAIリークを使っていないと言えるのはWaifuDiffusionやTrinArtなどごく一部で、競争力のあるSD系二次元イラストモデルは実質全てがNAIだと言えます(NijiJourneyのみMidJourney系で完全に別系統)。このため本稿執筆時点で二次元イラスト向けSD派生モデルを考察するにあたっては、基本的にNAIのことを考えた上で比較対象としてWDやTrinArtを見るという方針で良いと考えられます。

私は何をすべきか

11月からほぼ毎日AIイラストを作って「完成」させる、つまり「諦めてそこで完成させて公開をする」という創作一般の基本則をやったので、イラストAIのエンドユーザーとしてプロンプト芸をやる点に関しては橋頭堡を十分作りはしたと思います。またボードゲーム制作にも活用できそうなところには来ています。

その上で本分であるソフトウェア技術者として何ができるか、何をするかはなかなかまとまらないところです。text-to-xxxx生成モデルの世界は技術革新がHeats of Ironのようなタイムスケールで起きており、半年もあれば色んなものが陳腐化しそうな状況です。あるいはガンダム一年戦争で月替りで新モビルスーツが出てくる開発速度、アニメを見た時は「創作の開発速度~w」と思ったものですが人類が本気だと割りとあの速度が出るんだなということが身に沁みているところです。ガンダムついでに言えば、NAIリークモデルまわりに見るように南極条約もないルール無用世界でもあり、ある意味創作より現実がひどい。

いずれにしろ何かするなら世界が混沌と加熱の中にある時に限るので、何かやるまでは決定事項でいいと考えています。アドベントカレンダーらしく、とりあえず本稿は振り返りまでということで。

2022年ボードゲーム関連制作振り返り(と来年に向けて)

この記事は「どもがよ Advent Calendar 2022」です。

今年のボードゲーム制作でやったこと

(アウトプットとしては)何も…何の成果もあげられませんでしたあ!!

言い訳は一応あって、私のボードゲーム制作スタイルの場合は制作開始から完成までに半年〜1年程度のリードタイムとそれなりの在庫数が必要になります。一方で2020年コロナ以降、オフで顔を合わせてやることが前提のボードゲームは絶大な影響を受けています。2022年の上半期まではボドゲの新作を作って在庫リスクを飲むことがとてもではないけれど無理な状況でした。

しかし2022年も末になってきて、ようやく市況の正常化を感じられる状況になってきました。来春ゲームマーケット向けに新作を作っても良さそう、という待ちわびていたタイミングです。というわけで、来春以降の新作制作に向けた現状とマイルストーンを書いていこうと思います。

制作技術(供給サイド)の変化

2022年の8月、StableDiffusionの公開で突然AIアートの世界が破滅的イノベーションを迎えました。AIアートに関する話は後日エントリを書く予定ですが、これはボードゲーム制作でもかなりも革命がありそうだという予感があります。

理屈を飛ばして予想だけを書くと、少部数のボードゲーム制作が従来よりかなり「割に合う」ようになってくる可能性があると考えています。同人制作勢目線としては、来春ゲームマーケットで少数部の生産をやりやすい環境になる供給サイドの要因となります。

出したいもの、出せるもの

実はカード主体のボドゲを出したことがない、かつアートワークの制作コストが下がったタイミングなのでカード100枚くらいでやるゲームを作ってみたいという気持ちがあります。

百合紅拡張 第2弾

拡張第一弾「うつろひ」は実は結構前に出していました。そして2020年くらいから拡張第二弾も着手はしていて、だいたい半分くらいは出来てなくもない状態で寝かせていたりします。拡張第二弾は出すならカード主体の拡張になるので、次に出す内容としてちょうどいい内容ではあります。

完全新作

スクラップ&ビルドの段階です。この先に行くには試行ごとに確率的に起こるブレークスルーが必要なので(分かる人向けに例えるとStellarisの遺跡発掘イベント的なアレです)、次のゲムマに間に合うようなスケジュールを立てられるかだいぶ怪しい。思うところあって明確にオマージュしたい特定タイトルまでは決めているので、気合入れればちゃんと出せる気はしなくもないです。

ボードゲームの制作以外でやったこと

Ark Nova 攻略

ボードゲームブレイカーズの面々と延々Ark Novaを回して、一通りこのゲーム攻略したと言える段階には来ました。ただブレイカーズの面々が人生をやったりなどで、本を書く暇もモチベーションも怪しくなっている状態…

Essen Spielガイド本

私の方からは既に長文エントリを書いているのですが、この10倍くらい書きたいことがある人が本を書こうとしており来春そこから一緒に100ページくらいある薄い本を出すかもしれません。こっちはたぶん出ます。

Essen Spiel 2022 参加記録

Essen Spielの紹介

Essen Spiel入場口

What / Essen Spielの概要

会場

エッセン市の展示会会場で開催されます。会場自体は至って普通の展示会場で、幕張メッセインテックス大阪のイメージでOKです。

ホールの構成と販売品の傾向

展示会は1~5の5つのホールを使って行われました。使用ホールの基本的な構成は例年ほぼ同じの模様です。 ホールごとに出展ブースの特徴があり、似たようなブース同士がなるべく隣に来るように並べられています。

全体の傾向として、ホール番号の数字が若いほど(1~)一般的・市場が広く、5に近づくほどニッチ・マニア向けという塩梅になっています。

1~2ホール

ファミリー向け、ボドゲマニアでなくても知っているような押しも押されもせぬ有名タイトルが並びます。 例えばカタンやDixitなどはこのエリアの出展です。 また遊戯王やマジックザギャザリングなどの版権ものもここ。 ゲーム以外ではサプリメント(収納パーツなど)も並んでいます。

3ホール

ややコア向けでありつつ、気合の入っているゲーマーズゲームは主にここに並んでいます。Ark Nova, ウイングスパンはこのホールと言えば傾向は理解できるのではないでしょうか。 後述する4~5ホールと比べるとしっかり作られているゲームが多く、安定感がある一方で日本未展開のタイトルが数多く並びます。 ゲーマーに支持される、やりごたえのあるゲームを発掘しに行くならこのホールがおすすめです。個人的にも一番回ったホールでした。

4~5ホール

零細あるいはキワいタイトルが多いです。Spiel Scout(ユーザー投票ランキング)で4~5ホールからノミネートがあると「荒れている」と言われるあたりで、このホールの性格は察せるでしょう。日本で言えば同人制作なのではと思われるブースも少なくありませんでした。ちなみに日本からの出展は4ホールに集中していました。また日本産ではないもののanimeモチーフのタイトルや、ヴェトナム産のタイトルなどもこのエリアに配置されていました。総じて「(Essen Spielにおける)非主流」ジャンルがこのホールに配置されているようです。

イベントの性質

一方に東京ゲームショウのような純粋な展示会、もう一方にコミックマーケットのような即売会を置いた場合、Essen Spielはその中間の性質を持っていると言えます。コミックマーケットで言えば西館企業ホールのような展示が、ほぼ全てのブースにわたって展開されているイメージです。

各ブースで基本的にボードゲームをその場で買えることを考えれば、どちらかと言えば即売会としての性格が強いと言っていいと思います。

ブースの風景

イベント内で通用するもの(言語、通貨)

決済方法

大半のブースで決済にクレジットカードが使えます。VISAかMasterカードを持って行けばおおむねそれで済ませられるでしょう。 ただし少数派ながら現金決済必須のブースもあり、今回私が回った中ではArk Novaのあったブースが現金決済のみでした。 €100程度の現金を握りしめつつ、クレジットカードメインで支払いをしていけば問題ないと思います。

言語

ドイツ(ノルトライン・ヴェストファーレン州)全体で英語の通用度は非常に高いです。 現地人は非常に聞き取りやすい英語でしゃべってくれますし、こちらの英語もかなりよく理解してくれます。 またEssen Spiel自体は国際性の高いイベントで、特にボードゲームの出展者は非ドイツ語話者も多く英語が共通語です。 会話に関しては英語一本で困ることはあまりないでしょう。

会話は英語で通せるのですが、文字情報はドイツ語のみがデフォルトの世界です。下手をすると日本より英語併記率が低いのでは、という程度に文字はドイツ語しかありません。Google Lens+翻訳などである程度ごまかせるとは言え、ドイツ語が全くできないと文字情報を読むのには難儀することはあります。

ドイツ人には基本的に英語がよく通じるのですが、中にはあまり英語が得意でない人もいます。 ボードゲームの出展者はおおむね大丈夫なのですが、Essen Spielには飲食系で出展している人もいます。この手のブースで英語が通じにくいことはありました。

How / 回り方ガイド

会場へのアクセス

エッセン市は地下鉄があり、会場の目の前まで地下鉄駅が出ています。駅を降りて「Messe」の案内がある方に行けば迷うことはないでしょう。あるいは文字が読めなくても、オタクイベント特有のオーラと人の流れは日本と同じなので、オタクイベントのありそうな方に行くだけでも会場までたどり着けます。

入場と待機列

入場は電子チケットの購入と、スマホでのQR提示で入場できます。 新型コロナウイルス流行以降は日本のイベントでも増えた形式なので、入場形式としては特別なことはないでしょう。

日本の即売会でありがちな、開場後も長時間入場待ちになる「待機列」のようなものは基本的にありません。開場時に入り口に人だかりはできますが、流れはスムーズなのでほとんど待つことなく入場できました。

日本と異なる点として、エッセンの展示会は展示会場の所持者がイベントの運営も行っています。そのため、来場者の管理は会場と一体化している分効率は良いようです。

出展者はゆとりを持った在庫数を持ち込む傾向があるようで、2日目までに在庫が枯れるブースはほぼありません。日本の即売会のように開幕1時間で売り切れということがないため、開幕ダッシュをする必要性は薄いです。開幕待機列のなさはこれらの事情が噛み合っている結果でもあるように思いました。

在庫事情の違いは、主要な販路の違いから来ている面は大きそうです。日本の同人制作者の場合は、一番売上が立つのはゲームマーケット当日というサークルが少なくないでしょう。そのため即売会中にはけない在庫へのリスク評価が高くなり、製造部数自体が抑えられる傾向があるように思います。一方でEssen Spiel参加者の場合、一般商流に乗せていたり、Kickstarter経由で資金調達と製造を行なったりするのが一般的なようです。そのため会場に余裕を持って持ち込む在庫を抱えやすいという構造があるのでしょう。

戦利品の輸送 / DHLのすすめ

※この項目は毎年のようにEssen Spielに参加しているロジのプロの方の受け売りです。書籍化した時に内容が充実するでしょう。

まともに買い物をした場合、戦利品全てを人間が運ぶことは困難あるいは不可能です。 仮に数十kgのボードゲームを持ち歩ける強靭な肉体を持っていたとしても、航空機への持ち込み荷物の重量制限があります。多少の差はありますが基本的に20kg前後が制限重量になっており、ボードゲームを5~6個ほど手持ちするだけで重量制限で飛行機に乗れないリスクが顕在化するでしょう。そのため、Essen Spielでの戦利品は郵送をすることが事実上必須です。

郵送には大きく2つ手段があります。

  • Essen Spiel会場内からの発送
  • 市中のDHL(ドイツ版日本郵政)に持ち込み

考えるまでもなく会場内からの発送が楽なのですが、DHLに持ち込むと数十ユーロ単位で送料に差が出るため「ボードゲームもう一個買えるやん!」とはなります。注意点として、DHL窓口は平日日中しか開いていません。Essen Spielは例年は木~日の4日開催となるので、期間中にDHLできるのは2日目までの買い物に限られることになります。

ちなみに段ボールは会場内で€5~€10程度で販売されています。発送しなくても段ボール単体で売ってくれるのでありがたいです。価格は一見高めですが、サイズは結構大きいので良心的な設定だと思います。

Why / Essen Spielに行く良さ

上述のようにEssen Spielはドイツ最大、そして世界で最も大きなアナログゲーム展示会の一つです。 この時点で絶対行きたい!となる人もいるでしょうが、「展示会なら日本のゲームマーケットもあるし…」「メジャーどころのゲームは国内でも手に入るのでは」 という感想を持つ人もいると思います。ここではEssen Spielに行くと良いことを挙げていき、読者のEssen Spiel行きたい度の参考になる情報にしたいと思います。

出品されるボードゲームの違い

日本未上陸のゲームが結構ある

そもそも日本向けに展開していないタイトルも多く、そういったゲームに出会う機会として貴重です。 日本語ローカライズをしていないというだけでなく、日本の一般的な流通に乗っていないタイトルが多いです。 それも零細だけではなく、会場ではそれなりの規模の制作主体に見えるものでも日本ではKickstarterでしか手に入らないというものは少なくありません。

重量級ゲームの質と量

Essen Spielでは「重量級」、コンポーネントが大きかったり重かったり、プレイ時間も2時間以上といったゲームが出展のボリュームゾーンになっています。 これは小箱ゲー・30分以下のプレイ時間が主流のゲームマーケットと比べると対照的です。 重量級ゲームを探す場合、毎回1~2サークルが出すか出さないかのゲームマーケットに行くよりEssen Spielで爆買いする方が戦利品は多くなるでしょう。

欧州の重量級ゲームの市場の厚さを感じさせるのが、Essen Spiel会場でのオフ会待ち合わせ風景です。 オタクが即売会からオフ会に流れ込むのは万国共通で、Essen Spielの待機ホールでは午後からオフ会待ち合わせの人たちで賑わいます。 そこでは台車いっぱいのボードゲームを引きながらオフ会に向かうオタクたちが拝めます。 どうやって持ち帰るのか疑問になるほどの量の重量級ボードゲームを抱えた人がいっぱい行き交う光景は、 重量級ボードゲームをプレイする人口の多さと、それに応える供給側の厚みについて雄弁に語ってくれています。

会場で戦利品を抱えつつオフ会の待ち合わせをする現地のオタクたち

欧州でのカルチャー

確かにそれっぽいものがあるけれど、実体を捉えにくいものとして「文化」があります。

文化のようなものの実態がどうなのかを探る場合に、一つの方法は統計を取って定量的に見るという路線があります。これが ちゃんと できる人なら恐らく一番高精度で実相を把握できるでしょう。ただし ちゃんと の要求水準は極めて高く、分野のエキスパートと統計の専門家の能力を合わせてようやくというもので、その辺のアマチュアにはやれないとは言いませんがかなりの気合いと手間は必要です。Webで見る記事のたぐいは、(何らかの統計っぽい数字を出しているものも含めて)その水準に達していないものが大半です。

もう一つの路線としては、エピソードの積み上げから全体を把握するという流儀があります。ネットの記事やSNSへの投稿の大半はこれです。しかしエピソードベースの積み上げは、特に「文化」が絡む論点は、発信者が出す内容に偏りも出れば受け手(つまり自分)の情報選択バイアスから自由になることも出来ません。

そういったエピソードベースの欠点を埋める方法として、現実を浴びるのは圧倒的に手っ取り早いです。欧州ボードゲーム文化という枠内の話として、Essen Spielの「会場の空気を吸う」価値がここにあります。特にボードゲームでグローバル展開をしたりシノぎたいという人には、頭で考える前に足を使う方が楽だと思います。

欧州ボードゲーマーの顔が見れる

月並みですが、やはりこれはあります。ボドゲのレビューはBoardGameGeekを見るし買い物はネット通販やKickstarterという時代になっても、回線と海の向こうにいるのがどういう人たちがいるかの想像は難しいものです。

日本系ポップカルチャーの勢力

bishojo系統の製品出展は、存在はするものの4~5ホールでひっそりと展開している感じです。またbishojoに関しては日本からの出展はほぼなく(もしかしたら皆無かも)、韓国や台湾など北東アジアの出展者が目立つ状態でした。

いわゆるエロゲ看板っぽいものを出しているブースもありましたが、率直に言ってかなり浮いていたし、あまり来場者が足を止めてもいなかったように見えました。可愛い女の子系のゲームが珍しくもなくなった昨今のゲームマーケットと比べると別世界というか、日本の一部とゲームマーケットの方が異世界なんだなということは改めて印象付けられました。

bishojo以外で言うと、ポケモン遊戯王などグローバル・カチグミコンテンツは流石に1~2ホールで堂々の展開をしていました。このあたりはもはや日本系ポップカルチャーがどうという枠ではない気はしますが。

日本勢の出展からでは、ちびキャラゆるキャラ(サンリオ的なやつ、伝われ)モチーフのものが大半だったようです。エロゲ看板ほど浮いてはいませんでしたが、どれくらい現地で訴求力があったのかはちょっと謎でした。

会場でほぼ唯一見かけた「エロゲ看板」。かなり浮いていました

総論として

「圧倒的に受ける刺激の量が違う」、これに尽きると思います。私の場合、一般参加から含めてゲームマーケットには10年近く参加し続けています。ゲームマーケット自体が変化し続けているイベントではあるのですが、それでも個人的には「まあこんなもんだよね」となってしまっている面は否めません。その点Essen Spielは非常に新鮮で、ゲームマーケットに初めて参加したり出展した時の高揚感を得ることができました。

エッセン生活事情

Essen Spielに参加するとなると、少なくとも一週間程度はドイツで生活することになります。これは多少なりとも現地で「生活」が発生することになる期間です。Essen Spielに直接関係ない一般的な海外レポートの内容にはなりますが、大陸欧州初渡航の記録として書き残しておきます。

食べ物に関して

ドイツの食品品質は最高です。世界一かどうかはともかく、個々の素材や作り込みに関して実はトップクラスです。「食にこだわる民族に、パン・ハム・ソーセージとじゃがいも縛りを与えたらこうなるのがドイツ料理」が私の印象です。パンやハムに関しては、異常に高品位で美味いものがそれなりの値段で出てきます。全てが観光地価格観光地品質だったアムステルダムに爪の垢でも煎じて飲ませたい。イギリス飯があまりに破滅的なせいで巻き添えでドイツ飯も風評被害を受けている印象はありますが、イギリスと違い調理や味付けといった基本動作は極めて高水準でこなしているので比較するのも失礼なレベルです。

一方で世間的にはドイツ料理の評判はあまりよろしくありませんが、これはバリエーションの乏しさから来ている面はありそうです。上述のようにパンやハムが感動的に美味いのですが、ずっとこれだと飽きるという問題はあるのかもしれません。一週間程度の短期滞在で大きく問題になる点ではないとは思います…と言いたいところですが、人によっては一週間でも日本食が恋しくなるかもしれません。私自身は日頃から白米をほとんど食べない日本人にあるまじき食生活をしているので、このあたりへの耐性へ参考にならない気はしています。

バリエーションの点は、ケバブなど中東料理を挟むことでも解決できます。ドイツにはトルコ人第二の故郷と言えるほどトルコ人がいるせいか、ケバブ屋がそこらにあります。しかもケバブがかなり本格的で、日本のチェーン店で売っているケバブとは別物と言っていいものです。ドイツ料理の肉の品質へのこだわりを書きましたが、そこに並べて遜色ない調理品質のケバブが出てきます。ケバブももはやドイツ料理の一種と言っていい現状を思えば、ドイツ飯でバリエーションに困ったのも過去の話ではないでしょうか。

最近の欧米の例にもれず、sushiも普及しています。注意点として、寿司ではなくsushiです。油で揚げた何かとライスが合体してるやつが出てきます。私は食べませんでした。食べた同行者曰く「食べていて不味くはないがスシという感じなしなかった。でもつけ合わせのガリを食べたらスシになった、スシの構成要件はガリだというのは発見だった」とのことです。

ケバブ。€10とちょっとで外食としてはかなり安いし美味い

気候

当然同じ時期の東京よりは涼しいのですが、2022年に関しては活動するのにちょうどいいくらいの気候でした。滞在中の日中最高気温が20度弱くらい。北国の秋という感じではなく、コート類の出番がなかった程度には温暖でした。年によってもちろん変動はあるはずですが、北東北や北海道の晩秋をイメージしていると備えすぎになるかなという感じです。

現代はインターネットで現地の気温と週間予報も見れるので、天気予報を見て持ち込む服の調整をしていいと思います。現地も都会なので、予想外の寒波が来ても防寒具は最悪現地調達をすればなんとかなるでしょう。

施設について

宿

宿の清潔性に関しては極めて良好でした。N=1で語っても仕方ない部分がありますが、後述のトイレ事情と合わせて考えると基本的に高レベルを期待して良いと思います。

なおEssen Spiel目線では、エッセン市内泊をおすすめします。デュッセルドルフあたりからエッセンに通うことも可能ですが、電車で1時間以上の移動を連日するのはおすすめはできません。街の規模としてもエッセン市は「100万都市くらいが一番住みやすい」を体現しており、寝泊まりするだけなら楽&安心なのでこの点でもエッセン市泊がおすすめです。

トイレ

きれいです。日本人目線で引くほど綺麗でした。エッセン市内に関しては飲食店のトイレでも高級ホテル並の清潔さでびっくりしました。ウォシュレットが存在しない点を除けば完璧です。

Nordrhein-Westfalen州について

ノルトライン=ヴェストファーレン州は100万人級都市が連なる地域で、エッセン市もそれらの主要都市の1つです。市域人口自体は約80万人となっていますが、全体で1000万人のライン=ルール大都市圏の一部で割りと都会です。

近隣都市とは高速鉄道で繋がっており、1~2時間以内で移動可能です。高速鉄道と言っても新幹線のように高額なものではなく、在来線の乗車賃程度で乗ることができます。日本の新幹線のような高速性全振り規格にはなっていし、在来線と並行・共用したりしている分カジュアルに使えるのがDB(ドイツ鉄道)のIC(都市間鉄道)という感じでしょうか。近鉄特急以上・新幹線未満くらいのイメージになると思います。

Essen Spiel以外にも見どころはたくさんあり、ついでで足を伸ばすポイントとして紹介してきます。

ケルン市

世界遺産ケルン大聖堂がケルン中央駅の目の前にあります。比喩でなく目の前にあります。 駅舎内から突如視界に入るケルン大聖堂は圧巻です。ケルン大聖堂自体も極めて異常な建築物で、フラクタル構造を人力で地上に作ったゴシック建築になっています。

ケルン市自体はラインのほとりにたたずむ古都で、落ち着いた街並みの中に歴史と文化が感じられます。ケルン中央駅すぐそばからライン川を徒歩で渡れる橋もあり、歩いて楽しい街でもあります。観光地としてはイチオシです。

ケルン中央駅目の前に世界遺産の異常建築が現れます

デュッセルドルフ市

いわゆる大都市らしい大都市です。ケルンが古都なら、こちらは現代の大都市という趣です。分散的なNRW州ではありますが、その中で州都かつ中心都市なだけはあって大都市です。ドイツ最大の日本人街があり、日本人向けストリートを歩いていると新宿の街角にいるような錯覚をしてしまいます。倒錯した観光目的にはおすすめ。

エッセン市

分かりやすい観光資源があるわけではなく、比較的実直な産業都市という趣です。クルップ社に縁が深く、市のど真ん中にクルップ像が鎮座しています。実はクルップ社関連の史跡があり、このあたりが刺さる人は散策のしがいがあるかもしれません。

中央駅から下った先には商店街のようになっているエリアがあり、屋台も出ていて買い物や食べ歩きも楽しいです。寒い日の帰りがけに屋台のホットワインを一杯やるのも良いです。

エッセン市の中心部にある夜市

ドルトムント

今回行けてないので次回行きたい

ミュンスター

歴史ある街で、古い街並みが比較的よく残っています。ウェストファリア条約調印の地なので、この名前にピンと来た人は近代国家誕生の聖地巡礼に行きましょう。